とある雨の日曜日。
いつもだったら、日曜日は仕事が休みだが、朝間さんと多田ちゃんが働いてる部署が抱えてるとあるプロジェクトが終わっておらず、その日、朝間さんと多田ちゃんは休日出勤した。
夜になり、仕事の目途がつくと、多田ちゃんが言った。
多田ちゃん「朝間さん、俺、今日車なんで、送っていきますよ」
朝間さん「え?いいの?」
多田ちゃん「はい」
朝間さんと多田ちゃんは、ロッカー・ルームで作業着から私服に着替え、扉の戸締りをし、工場を出て、工場内にある駐車場まで少し歩いた。
そのころには、雨はもう止んでいた。
駐車場にたどり着くと、朝間さんと多田ちゃんは、車に乗り込んだ。
多田ちゃんがエンジンをかけ、車を走らせて、しばらくすると、やたら都会的な街に出た。
窓から外を眺める朝間さん。
そんな、朝間さんが言った。
朝間さん「なんかやたらオシャレな街だけど、ここどこ?」
多田ちゃん「え?港区っす」
朝間さん「港区?多田ちゃん、こんなとこに住んでんの?金持ちなんだあ」
多田ちゃん「違いますよ。ただの通り道っすよ。それに、先に朝間さん家に向かってるんですから」
朝間さん「ふ~ん」
そして、再び、窓から外を眺める朝間さん。
そんな都会的な街を見ていると、都会的な街に縁もないのに、急に感傷的な気持ちになり、過去を振り返る気分になった。
あのころああしてれば、あのときの決断は正しかったのか、自分が歩んできた道は間違いじゃなかったのか、なんの結論も出ないが、そんな想いが頭の中を駆け巡った。
まあ、そんな大きな決断をしてきた人生ではないけれど。
というのは、朝間さんの脳内での出来事であって、現実の世界では、朝間さんと多田ちゃんはこんなやりとりをしていた。
朝間さん「多田ちゃんさあ。なんか、多田ちゃんと二人でこんなオシャレな街を走ってると、俺、多田ちゃんとデートしてるみたいだよ~」
多田ちゃん「朝間さん、なに気持ち悪いこと言ってるんすか。デートしたいなら、彼女作ってくださいよ~」
朝間さん「無理、無理ー。俺、モテないから、無理ー」
そんな日曜日なのであった。
小沢健二/「流動体について」
(つづく!)