浮かれた気分で歩いていた。
仕事が終わって、気持ちが軽くなっていたからだ。
今はそんな気分だけど、明日にはまた、トラブルがあって、嫌な気分になるだろう。
仕事だけじゃなくて、日常生活でも。
一瞬の休息だ。
夜空を見上げると、月が浮かんでいた。
満月まであと一歩といった具合の月。
明日には、いや、明後日には、完全な満月になるのだろうか。
完全な満月じゃなくて惜しい気もするけど、まあそれはそれでよしとしよう。
歩いていると、バッティング・センターの横を通りかかった。
若いカップルがデートで遊びに行くような、今風の煌びやかなバッティング・センターではなく、ちょっと古びた薄暗いバッティング・センター。
そのバッティング・センターで、バッター・ボックスに立ち、バットを構えてる自分を想像する。
実際にバッティング・センターに入ったわけではなく、あくまでも想像でだ。
僕は球を打てるだろうか。
空振りするだろうか。
そんな想像をしていると、スマートフォンが鳴った。
僕は一旦想像をやめ、スマートフォンをポケットから取り出し、画面を見ると、電話は仕事場からだった。
仕事が終わった帰り道だというのに、僕に自由はないのか。
自由というのは大げさか。
まあ、働いてたら現実こんなもんか。
無視するわけにもいかないので、僕は電話に出た。
少しだけ話したけど、電話は大した用ではなかった。
電話を切ると、僕は再び歩き出した。
バッティング・センターを通り過ぎると、ファミレスが見えてきた。
夜は、ファミレスが輝かしく見える。
そんな輝かしさに吸い寄せられるように、なんてことないファミレスのコーヒーが飲みたくなって、僕はファミレスに入り、ドリンク・バーを注文した。
席を立ち、マグカップを手に取り、ホット・コーヒーを淹れ、席に戻る。
コーヒーを一口飲み、再びバッティング・センターの想像を再開した。
バットを構えて立ってる僕。
そんな僕に向かって、球は投げられる。
僕はその球に向かい、バットを振る。
球はバットに当たり、高く飛ぶ。
するとその瞬間、バッティング・センターは球場に変わり、球は、高く遠くへ飛ぶ。
そして球は、 客席へ。
僕が打った球は、ホームランになった。
客席からは大きな歓声が起き、僕は塁へ走り出す。
小走りで一回りし、ホームベースを踏み、一点取る。
僕はそこで想像をやめる。
現実に起きた出来事ではなく、想像だけれど、僕はとても良い気分だった。
そして、また一口コーヒーを飲んだ。